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東京高等裁判所 平成10年(行コ)38号 判決

控訴人 立飛企業株式会社 ほか一名

被控訴人 建設大臣

代理人 中垣内健治 廣戸芳彦 ほか四名

主文

一  本件各控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人ら

1  原判決を左記請求の範囲で取り消す。

2  本件を東京地方裁判所に差し戻す。

(主位的請求)

被控訴人が平成九年三月三一日付け建設省告示第九七〇号をもってした住宅・都市整備公団を施行者とする立川都市計画事業立川基地跡地関連地区土地区画整理事業の施行規程及び事業計画に対する認可は、これにより別紙物件目録記載一及び二の各土地に右公団が右事業を施行する権限を取得し、控訴人新立川航空機株式会社が同物件目録記載三の建物を改築するに当たり土地区画整理法七六条一項による東京都知事の許可を受ける義務を生ぜしめる限度において無効であることを確認する。

(予備的請求)

右認可処分を取り消す。

二  被控訴人

主文と同旨

第二当事者の主張等

事案の概要及び当事者双方の主張は、次のとおり訂正し、付加し、又は削除するほかは、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

一  原判決四頁五行目の「土地を所有する原告ら」を「別紙物件目録記載一の土地を所有する控訴人立飛企業株式会社並びに同物件目録記載二の土地(以下、右両土地を合わせて「本件各土地」という。)及び同物件目録記載三の建物(以下「本件建物」という。)を所有する控訴人新立川航空機株式会社」と、同行目の「土地区画整理事業」を「土地区画整理法(以下「法」という。)」とそれぞれ改め、同六行目「住宅・都市整備公団」の次に「(以下「公団」という。)」を、同七行目の「ついては」の次に「、法三条一項により」をそれぞれ加え、同八行目の「同公団」を「公団」と改め、同行目の「ためには」の次に「、法八条一項により右施行区域内の宅地の権利者である」を加え、同一〇行目の「主位的」から同一一行目末尾までを「本件認可につき、主位的に、本件認可により、本件各土地に公団が本件事業の施行権限を取得することになり、また、控訴人新立川航空機株式会社が本件建物の改築につき法七六条一項による東京都知事のその旨の改築許可を受けることを義務付ける限度において無効であることの確認を、予備的に、本件認可の取消しを求める事案である。なお、控訴人らは、原審において主位的に本件認可の取消しを、予備的にその無効確認を求めていたが、当審において右のように請求を変更した。)。」と改める。

二  原判決五頁三行目の「土地区画整理法」から同四行目「という。)」までを「法」と、同五行目の「住宅・都市整備公団(以下「公団」という。)」を「公団」と、同九行目の「施行」を「施行することが」とそれぞれ改める。

三  原判決七頁一〇行目の「二号」を「一号」と改める。

四  原判決九頁一一行目の次に行を改めて

「(二) 控訴人らは、住宅・都市整備公団法四六条一項一号が同法四一条一項の認可を「処分」と表現していることを根拠に、本件認可が行政処分であると主張する。しかし、住宅・都市整備公団法四六条一項一号の規定は、法一二七条四号が法五二条一項の規定による都道府県又は市町村の施行する土地区画整理事業の事業計画に対する建設大臣又は都道府県知事による認可を「処分」と規定した上で、それについて行政不服審査法による不服申立てをすることができないとしているのと同趣旨の規定であるところ、法五二条一項の認可が行政処分に当たらないことは判例として確立しており、したがって、これと実質において何ら相違のない本件認可も、行政処分には当たらないと解すべきはもちろんであり、住宅・都市整備公団法四六条一項一号が公団施行の土地区画整理事業の事業計画に対する建設大臣の認可を「処分」と表現していることを根拠に本件認可を行政処分と解することはできない。」

を加え、同一二行目の「(二)」を「(三)」と改める。

五  原判決一〇頁一一行目の「(三)」を「(四)」と改める。

六  原判決一一頁七行目の「(四)」を「(五)」と改める。

七  原判決一二頁一二行目から原判決一三頁二行目までを削る。

八  原判決一三頁八行目から原判決一四頁五行目までを次のとおり改める。

「(三) 建設大臣の公団が施行する土地区画整理事業の事業計画に対する認可は、行政処分である(住宅・都市整備公団法四一条、四六条一項一号)。

しかし、右事業計画の認可は、特定の行政目的に向けられたこれに後続する一連の具体的な行政処分に先行するところの具体的処分性のない一般的規範を定立する処分にして公定力のない処分であるところ、前記のとおり、本件認可は、法三条の二第二項一号の公団が施行する土地区画整理事業の要件及び法八条一項の権利者の同意を欠き、違法であるから、その範囲において、当然に無効である。控訴人らは、本件認可により公団が本件事業の施行者とされることにより、今後、公団による本件各土地への立入り等及び控訴人新立川航空機株式会社が本件建物を改築するにつき東京都知事にその旨の許可を受けることを義務付けられる損害を被ることになる。そして、行政事件訴訟法三六条は、同法三八条一項により、取消訴訟の場合に要件とされる同法九条の要件を欠く場合にも、当該処分に後続する処分により損害を受けるおそれがあり、後続処分の無効確認を求める利益があれば、その限度において、先行する当該処分の無効確認訴訟を提起することを認めた規定である。したがって、控訴人らは、同法三六条の規定により、前記限度において、本件認可の無効確認を求めることができる。

(四) 仮に本件認可が当然無効でないとした場合、本件認可は、前記のように住宅・都市整備公団法四六条一項一号により行政処分とされており、しかも、現時点において、控訴人らは、これにより前記のように種々具体的な不利益を被っているから、行政事件訴訟法による取消訴訟の対象となる行政処分であって、控訴人らは、右認可の取消訴訟を提起するにつき訴えの利益を有する。」

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人らの本件各訴えはいずれも不適法であるから、これを却下すべきものと判断する。その理由は、左のとおり訂正し、又は付加するほかは、原判決の「第三 当裁判所の争点に対する判断」に説示のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決一九頁七行目の次に行を改めて

「4 控訴人らは、住宅・都市整備公団法四六条一項一号の規定を根拠に本件認可は行政処分であると主張する。しかし、行政事件訴訟法が規定する抗告訴訟の対象たる行政処分は、さきにも説示したとおり、行政行為のうち公権力の行使であって、これにより直接個々の国民の具体的権利義務を形成し、又はその範囲を確定するものをいうのであり、住宅・都市整備公団法四一条による建設大臣の公団に対する土地区画整理事業の事業計画の認可の性格は、かかる意味における行政処分とは認められないものであるから、同法四六条一項が右事業計画の認可を行政不服審査法による不服申立てをすることのできない「処分」のひとつとして規定していることをもって、右事業計画の認可を抗告訴訟の対象となる行政処分であると解することはできない。」

を加え、同八行目の「4」を「5」と、同一三行目の「取消し」を「無効確認又は取消し」とそれぞれ改める。

2  原判決二一頁三行目の「施行者なる」を「施行者になる」と、同一一行目の「また」から原判決二二頁四行目末尾までを「本件認可が当然無効であるから、行政事件訴訟法三六条、三八条により、後続処分により損害を被るおそれがある限度で先行処分である本件認可の無効確認を求めることができる旨主張する。」とそれぞれ改める。

二  よって、当裁判所の右判断と同旨の原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条一項、六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井健吾 櫻井登美雄 杉原則彦)

別紙物件目録〈略〉

(参考)第一審 (東京地裁平成九年(行ウ)第一〇六号平成一〇年一月二七日判決)

主文

一 本件訴えを却下する。

二 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一 原告ら

(主位的請求)

被告が平成九年三月三一日付けでした住宅・都市整備公団を施行者とする立川都市計画事業立川基地跡地関連地区土地区画整理事業の施行規程及び事業計画に対する認可(建設省告示第九七〇号)はこれを取り消す。

(予備的請求)

被告が平成九年三月三一日付けでした住宅・都市整備公団を施行者とする立川都市計画事業立川基地跡地関連地区土地区画整理事業の施行規程及び事業計画に対する認可(建設省告示第九七〇号)は無効であることを確認する。

二 被告

(本案前の答弁)

本件訴えを却下する。

(本案の答弁)

原告らの請求をいずれも棄却する。

第二事案の概要

本件は、被告が、住宅・都市整備公団を施行者とする立川都市計画事業立川基地跡地関連地区土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)の施行規程(以下「本件施行規程」という。)及び事業計画(以下「本件事業計画」という。)を認可(以下「本件認可」という。)したのに対し、本件事業の施行地区内に土地を所有する原告らが、右事業の施行地区は土地区画整理事業三条の二第二項一号所定の地域に該当しないから、住宅・都市整備公団が施行者となりうる法律上の根拠はなく、また、原告ら所有地については原告らが土地区画整理事業の施行権を有するから、同公団が施行者となるためには原告らの同意を得る必要があるところ、原告らは同意をしていないのであって、これらの点を看過してされた右認可は違法であるとして、主位的にその取消しを、予備的にその無効確認を求めているものである。

一 関係法令の定め

1 宅地について所有権若しくは借地権を有する者又は宅地について所有権若しくは借地権を有する者の同意を得た者は、一人で、又は数人共同して、当該権利の目的である宅地について、又はその宅地及び一定の区域の宅地以外の土地について土地区画整理事業を施行することができる(土地区画整理法(以下「法」という。)三条一項)。

住宅・都市整備公団(以下「公団」という。)は、建設大臣が公団の行う住宅の建設又は宅地の造成と併せてこれと関連する健全な市街地に造成するための土地区画整理事業を施行する必要があると認める場合、都市計画法一二条二項の規定により土地区画整理事業について都市計画に定められた施行地域の土地について、土地区画整理事業を施行できる(法三条の二第一項)ほか、建設大臣が左記に掲げる区域のうち特に一体的かつ総合的な市街地の再開発を促進すべき相当規模の地区の計画的な整備改善を図るため必要な土地区画整理事業を施行する必要があると認める場合においては、右施行区域の土地について、当該土地区画整理事業を施行することができるものとされている(同条二項)。

(一) 人口の集中の特に著しい政令で定める大都市の既に市街地を形成している区域及びこれに接続して既に市街地を形成している区域(同項一号)。

(二) 大規模な災害を受けた都市で政令で定めるものの区域のうち、被災市街地復興特別措置法(平成七年法律第一四号)五条一項の規定により都市計画に定められた被災市街地復興推進地域の区域(同項二号)。

2 右の規定により公団が土地区画整理事業を行う場合については、法及び住宅・都市整備公団法(昭和五六年法律第四八号)の定めるところによるものとされている(法三条の二第三項)ところ、公団は、土地区画整理事業を施行しようとするときは、施行規程及び土地区画整理事業の事業計画(以下「事業計画」という。)を定め、建設大臣の認可を受けなければならないこととされ(住宅・都市整備公団法四一条一項)、そして、建設大臣は、右の認可をしたときは、遅滞なく、建設省令で定めるところにより、施行者の名称、事業施行期間、施行地区(施行地区を工区に分けるときは、施行地区及び工区)その他建設省令で定める事項を公告し、かつ、関係都道府県知事及び関係市町村長に施行地区及び設計の概要を表示する図書を送付しなければならないものとされている(同条一一項)。

二 前提となる事実(当事者間に争いがない。)

1 被告は、公団を施行者とする立川都市計画事業立川基地跡地関連地区土地区画整理事業(本件事業)の施行規程及び事業計画について、本件事業の施行区域は、「人口の集中の特に著しい政令で定める大都市の既に市街地を形成している区域及びこれに接続して既に市街地を形成している区域」(法三条の二第二項二号)に該当するとして、平成九年三月三一日付けでこれを認可(本件認可)した。

2 原告らは、いずれも本件事業の施行地区内に土地を所有する者である。

三 争点及び争点に関する当事者の主張

本件の争点は、本件認可(本件施行規程及び本件事業計画の認可)が、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるか否かであり、この点に関する当事者の主張は、次のとおりである。

1 被告の主張

(一) 本件認可は、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらず、本件訴えは不適法である。

すなわち、本件認可は、本件事業の施行者である公団が住宅・都市整備公団法四一条一項に基づいて行った施行規程及び事業計画についての認可申請についてされたものであるところ、土地区画整理事業における施行規程は、当該事業の名称及び範囲、施行地区に含まれる地域の名称、事務所の所在地、費用の分担に関する事項、保留地の処分方法に関する事項、土地区画整理審議会等に関する事項、地積の決定の方法に関する事項等を定めるものであって(同法四一条三項、法五三条二項、法施行令一条二項)、当該事業の施行に当たり施行者が準拠すべき基礎的事項を定めた規則にすぎないものである。また、土地区画整理事業における事業計画それ自体は、いわば事業の青写真であって、その施行地区や設計の概要、事業施行期間等、当該事業の基礎的事項を一般的・抽象的に定めるものであって、事業プランを示すものにすぎず、右のような性質の施行規程及び事業計画に関し被告の認可があったからといって、そのことのみによって、直ちに特定の個人の権利関係に対し、直接かつ具体的な変動を及ぼすような効果はないというべきである。

したがって、被告がした本件認可は、国民の権利義務に具体的な変動を及ぼす行政処分とはいえず、また、右認可の段階においては、争訟の成熟性ないし具体的事件性を欠くことが明らかである。

(二) 原告らは、本件認可が公告されると、本件事業の施行地区内に原告らが所有する土地について所有権行使の制約を受けると主張する。

しかし、かかる所有権行使の制約は、本件事業計画の円滑な遂行に対する障害を除去するために、公告に対して法律が特に付与した附随的な効果にすぎず、事業計画又はその認可それ自体の効果として発生するものではないから、直接かつ具体的な権利侵害でないことは明らかである。そして、所轄行政庁等が当該事業の施行に対する障害を排除するため、土地の原状回復を命じ、又は建築物等の移転若しくは除却を命じた場合には、その違法を主張する者は、その取消しを訴求することができるのであって、このことに照らすと、本件認可及び公告の段階でその取消し又は無効確認を求める訴えを許さなくとも、利害関係人の権利保護に欠けるとはいい難く、具体的な権利侵害に対する救済に欠けるところはないというべきである。

(三) 原告らは、被告による本件認可により、自ら土地区画整理事業を施行する権限を奪われ、法律上不利益を受けている旨主張する。

確かに、本件認可がされたことにより、施行者である公団の同意がない限り、施行地区内の地権者である原告らは同地区について自ら土地区画整理事業を施行することが不可能となるが(住宅・都市整備公団法四七条一項、法一二八条一項)、これは右事業の重複施行を防止するために、法が特に付与した認可に伴う附随的な効果に止まり、事業計画の認可そのものの効果ではない上、原告らは都道府県知事に右事業施行の認可申請さえも行っていないのであるから、原告らの主張は失当である。

(四) 原告らは、取消訴訟においては、行政庁の行為により直接的に権利等の侵害を受けていなければ、右行為を訴訟の目的となし得ないが、行政事件訴訟法三六条に基づく無効確認訴訟においては、行政庁の先行行為に依拠する後続処分を介して間接的に損害を受けるおそれがあれば右先行行為を訴訟の目的となしうる旨主張する。

しかし、無効確認訴訟の対象となるべき行政庁の行為も、取消訴訟と同じく国民の権利義務ないし法律上の地位に直接具体的な法律上の影響を与えるものでなければならないことは同法三条二項、四項の文言から明らかであり、同法三六条も「当該処分」と規定し、先行行為が処分性を有することを前提にしていることは当然である。原告らの主張は独自の見解に基づくものであって主張自体失当である。

2 原告らの主張

(一) 本件認可が公告されると、原告らは、換地処分の公告(住宅・都市整備公団法四七条一項、法一〇三条四項)がある日までは、施行地区内において、土地区画整理事業の施行の障害となるおそれがある土地の形質の変更又は建築物その他の工作物の新築、改築又は増築を行うこと等をしようとする場合に、都道府県知事の許可を受けなければならなくなる(住宅・都市整備公団法四七条一項、法七六条一項)。

このように、原告らは、本件事業の施行地区内の所有地について所有権行使の制約を受けるのであり、将来にわたってかかる制約を受忍すべきか否かについて裁判を受ける権利を有している(憲法三二条)から、本件認可についてもこれを裁判で争うことができるというべきである。

(二) 原告らは、法三条一項により、本件事業の施行地区内の所有地について自ら土地区画整理事業を施行する権限を有しているが、本件認可がされたことにより、施行者である公団の同意がない限り、原告らは自ら土地区画整理事業を施行することができない(住宅・都市整備公団法四七条一項、法一二八条一項)こととなる。

原告らは、かかる不利益を被っているのであるから、本件認可の取消しを求める正当な利益がある。

(三) 取消訴訟においては行政庁の行為により直接的に権利等の侵害を受けているのでなければ右行為を訴訟の目的となし得ないが、無効確認訴訟においては、行政事件訴訟法三六条に規定するとおり、行政庁の先行行為に依拠する後続処分を介して間接的に損害を受けるおそれがあれば、右先行行為を訴訟の目的となしうるものである。

本件では、仮に本件認可によって原告らが未だ損害を受けていないとしても、本件認可に依拠し、それに続く換地その他本件事業の施行に伴う将来の処分(後続処分)を介して損害を受けるおそれがあるから、先行行為である本件認可は無効確認訴訟の目的となりうるというべきである。

第三当裁判所の争点に対する判断

一1 抗告訴訟(行政事件訴訟法三条一項)の対象となる行政処分とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。

2 土地区画整理事業における施行規程は、当該事業の名称及び範囲、施行地区に含まれる地域の名称、事務所の所在地、費用の分担に関する事項、保留地の処分方法に関する事項、土地区画整理審議会等に関する事項、地積の決定の方法に関する事項等を定めるものであって(法五三条二項、法施行令一条二項、住宅・都市整備公団法四一条三項)、当該事業の施行に当たり施行者が準拠すべき基礎的事項を定めた規則にすぎないものであるから、これに対する被告の認可それ自体は、特定個人の具体的な権利に変動を及ぼすものではない。

3 土地区画整理事業の事業計画は、同事業に関する一連の手続の一環をなすものであるが、事業計画それ自体は、長期的見通しのもとに、施行地区(施行地区の位置、施行地区の区域を明らかにするに必要な各境界、宅地の地番及び形状等)、設計の概要(事業の目的、施行地区内の土地の現況、事業施行後の施行地区内の宅地の地積の合計の事業施行前における施行地区内の宅地の地積の合計に対する割合、保留地の予定地積、事業施行後の施行地区内の公共施設等の用に供する宅地の位置及び形状等)、事業施工期間及び資金計画等、当該土地区画整理事業の基礎的事項を当該施行者が専門的・技術的な考慮に基づき一般的・抽象的に定めるものである。したがって、事業計画には施行地区内の宅地の地番及び形状が表示されることになっているとはいえ、それは、特定個人に向けられた具体的な処分とは著しく趣きを異にし、それ自体ではその遂行によって利害関係者の権利にどのような変動を及ぼすかが、必ずしも具体的に確定されているわけではなく、いわば当該土地区画整理事業の青写真たる性質を有するものにすぎないと解するのが相当である。

事業計画の右のような性質はそれが公告された後においても変わらないものである。もっとも、事業計画が公告されると、換地処分の公告(法一〇三条四項、住宅・都市整備公団法四七条一項)がある日までは、施行地区内において、土地区画整理事業の施行の障害となるおそれがある土地の形質の変更又は建築物その他の工作物の新築、改築又は増築を行うこと等をしようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならなくなり(法七六条一項、住宅・都市整備公団法四七条一項)、また、施行地区内の宅地の所有権以外の権利で登記のないものを有し、又は有することになった者も、所定の権利申告をしなければ不利益な取扱いを受ける(法八五条、住宅・都市整備公団法四七条一項)ことになっている。しかしながら、これらは、当該事業計画の円滑な遂行に対する障害を除去する必要に基づき、公告に対して法律が特に付与した附随的な効果にとどまるものであって、事業計画の認可ないし公告そのものの効果として発生する権利制限とはいえない。なお、事業計画が認可され、公告されたとしても、これによりその施行者が施行地区内の土地について収用権限を取得するものでないことはいうまでもない。

したがって、事業計画は、認可の段階においてはもちろん、公告の段階においても、直接個人に向けられた具体的な処分ではなく、また、宅地・建物の所有者又は賃借人等の有する権利に具体的な変動を与える処分ではないというべきである。

また、事業計画自体は、右に述べたとおり、特定の個人に向けられた具体的な処分ではなく、いわば当該土地区画整理事業の青写真たるにすぎない一般的・抽象的な計画にとどまるものであること、当該事業の施行に対する障害を排除するため、所轄行政庁等が土地の原状回復を命じ、又は建築物等の移転若しくは除却を命じた場合、右命令を受けこれに不服がある者は、その取消し又は無効確認を訴求することができ、また、当該行政庁等が換地計画の実施の一環として、仮換地の指定又は換地処分を行った場合において、右処分を受けこれに不服がある者は、これらの具体的処分の取消し又は無効確認を訴求することができることに照らすと、施行規程及び事業計画の認可及び公告の段階でその取消し又は無効確認を求める訴えを許さなくとも、利害関係人の権利保護に欠けるとはいい難く、具体的な権利侵害に対する救済に欠けるところはないというべきであって、事業計画の認可ないし公告の段階でその取消し等を求める訴えは、争訟の成熟性ないし具体的事件性を欠くものというべきである。

もっとも、土地区画整理事業のように一連の手続を経て行われる行政作用で手続の進行に応じて順次あるいは必要に応じて具体的な処分がされることになっている場合において、そのどの段階で訴えの提起を認めるべきかは立法政策の問題であるというべきであるが、法は、右の考え方に立ち、事業計画の認可ないし公告の段階では争訟の成熟性ないし具体的事件性を欠き、訴えの提起を認めるのは妥当でなく、その必要性もないとしているものと解される。

4 そうすると、被告がした本件認可は、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたらないというべきである。

二1 原告らは、本件事業の施行地区内の所有地について自ら土地区画整理事業を施行する権限を有しているが、本件認可がされたことにより、施行者である公団の同意がない限り、原告らは自ら土地区画整理事業を施行することができないという不利益を被っているのであるから、本件認可の取消しを求める正当な利益がある旨主張する。

確かに、法三条一項によれば、個人も土地区画整理事業の施行者となりうるものとされているところ、現に施行されている土地区画整理事業の施行地区となっている区域については、その施行者の同意を得なければ、その施行者以外の者は、土地区画整理事業を施行することができない旨定められている(法一二八条一項、住宅・都市整備公団法四七条一項)から、原告らの主張するとおり、本件認可がされたことにより、原告らは、公団の同意がない限り、同一の土地について土地区画整理事業を施行できないことになる。しかしながら、法三条一項は、個人が単に施行者となりうることを定めているにすぎず、それ以上に、個人がその所有の土地等について土地区画整理事業を施行する権限を付与し、あるいはその権利を保障したものでないことは文理上明らかであり、また、公団が被告の認可を受けて土地区画整理事業を施行するについて施行地区内の土地の所有者の同意を得なければならないなどの要件は定められていないのであって、本件認可により原告らの所有者としての権利が侵害されるということはできない。また、本件認可がされたことにより、原告らにおいて施行者なることができなくなるとしても、それは、本件認可そのものの効果ではなく、同一の土地についての土地区画整理事業の重複施行を制限し、現施行者及びその関係者の地位の安定を図るべく法が特に制約を設けているため生じた事実上の効果にすぎず、本件認可により原告らの法的利益が侵害されたということはできない。

なお、個人が土地区画整理事業を施行しようとする場合には、自ら同事業の施行について都道府県知事に認可申請をし、それが不許可とされた場合に、右不許可処分の違法を主張してこれを争うほかはないというべきである。

2 原告らは、また、予備的請求について、無効確認訴訟においては、行政事件訴訟法三六条に規定するとおり、行政庁の先行行為に依拠する後続処分を介して間接的に損害を受けるおそれがあれば右先行行為は訴訟の目的となしうるのであり、本件では、仮に本件認可によって原告らが未だ損害を受けていないとしても、本件認可に依拠し、それに続く換地その他本件事業の施行に伴う将来の処分を介して損害を受けるおそれがあるから、先行行為である本件認可は無効確認訴訟の目的となりうる旨主張する。

しかしながら、無効確認訴訟は処分若しくは裁決の存否又は効力の有無の確認を求める訴訟であって(同法三条四項)、その対象が行政庁の公権力の行使に当たる行為として国民の権利義務ないし法律上の地位に直接具体的な法律上の影響を与えるものでなければならないことは明らかである。(同法三六条も先行行為について「当該処分又は裁決」と規定し、先行行為が処分性を有することを前提にした上で、無効確認訴訟の原告適格について規定しているものにすぎない。)。

したがって、先行行為である本件認可が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらない以上、これに続く処分によって原告らが損害を被るおそれがあるからといって、本件認可が無効確認訴訟の対象となるということはできない。

原告らの主張は、独自の見解に基づくものであって失当である。

三 結語

以上の次第で、本件訴えは不適法というべきであるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民訴法六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 青柳馨 増田稔 篠田賢治)

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